自己顕示欲充足システムに飲み込まれる登山者と事故の危険性
~インターネットの普及による山行への影響について『ヤマレコ』を事例にして~

2016年1月31日公開、2018年6月4日更新

▼目次
■1.初めに
■2.物議を醸した山行記録
 ◆立入規制区域に侵入した山行記録
 ◆登山者と山小屋スタッフ間、またはパーティメンバー間の個人的いざこざを一方的な形で書いた山行記録
 ◆拍手目的の山行記録
■3.ユーザーの遭難死
■4.考察
 ◆自己顕示欲充足システムに飲み込まれる登山者
 ◆ウェブ上の情報をどこまで参考にしていいのか
 ◆ウェブのコミュニティでは自浄作用が働かない。その結果としての「晒しスレ」の存在と「外圧の必要性」
 ◆物議を醸した登山者だけの問題なのか
 ◆山行におけるインターネットの功
■5.最後に

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1.初めに

 アウトドアレジャーのうち”登山”は油断すると事故に繋がるし最悪”死ぬ”。だから、事前の計画、装備、技術、経験が問われる事になる。

 今回取り上げるのは、”登山”と”ウェブ上の活動”が組み合わさった場合にどうなるかということである。 インターネット時代における登山の問題としてよく挙げられるのは”即席パーティによる遭難”である。 ウェブ上で一緒に山を登る人を募集すると見ず知らずの人達による即席パーティになる。 即席パーティの為、参加者同士の意思疎通がうまく行かなかったり、お互いの実力が判らないまま登山を行うことにより、お互いに足を引っ張ってしまい、事故や遭難に繋がっていくという問題である。 これはこれで問題なわけだがここでは取り上げない。

 ハイカーに”目立ちたい””同情してほしい”という気持ちがあって、ウェブ上の活動でそれを満たそうとする場合、どういう行為に繋がっていくのか。 そしてその行為はやがて事故に繋がっていくのではないか。それがこの文の内容であり、 舞台はウェブ登山界の中で圧倒的な存在感をみせる登山SNS『ヤマレコ』である。

 登山の事であるが、それは題材がそうなだけであって、 過去のウェブの事象・歴史に立脚したウェブ文化論(ネット文化論)である。 また、私が主張している事が正しいと言うつもりは全くない。あくまで一つの考えを提示しているだけであって、色々な議論があっていい

2.物議を醸した山行記録

 『ヤマレコ』では、ユーザーが山を歩いた記録を日記形式で書いて公開する事ができる。これを「山行記録」という。 その山行記録を他のユーザーが見て、自分の山行の参考にしたり、その山行記録が気に入れば拍手をおくることが出来る。

 ブログやTwitterに”炎上”と呼ばれる現象があるように、『ヤマレコ』の山行記録においてもユーザーが変な事を書けば物議を醸し、他のユーザーから非難を浴びたり『2ちゃんねる』等で晒されたりする。 まずは『ヤマレコ』で過去に物議を醸した山行記録の例をあげる。 なお、本当は言うまでもないことなのだが、念のために書くと個人攻撃をすることが目的ではない。 さらに『ヤマレコ』のアカウントは実名バレしやすい事から、その人への影響も考えて、今回は具体的な山行記録とそのURLについて一部を除いて提示しない事にした。

◆立入規制区域に侵入した山行記録

 2014年9月、御嶽山噴火。昼食の時間帯に起きた噴火は山頂にいる人達を襲い、多数の犠牲者を出す惨事となった。
 2015年6月、御嶽山の入山規制区域内に登山者が侵入した可能性があるとして、登山口のある岐阜県下呂市から岐阜県警下呂署に通報があった。 そして9月、とあるヤマレコユーザーが書類送検された。御嶽山の入山規制区域に侵入した為である。

御嶽山規制区域に立ち入り=43歳会社員書類送検-岐阜県警

 昨年9月の噴火で58人が死亡した御嶽山(岐阜・長野県境、3067メートル)の入山規制区域に許可無く入ったとして、岐阜県警下呂署などは7日、災害対策基本法違反容疑で、大阪府茨木市の男性会社員(43)を書類送検した。同署によると、「規制は認識していたが、趣味で百名山を順番に登山しており、どうしても登りたかった」と容疑を認めているという。
 送検容疑は6月11日、当時、岐阜県下呂市が入山規制区域に指定していた御嶽山の火口から半径4キロ圏内に無許可で立ち入った疑い。
 会社員は翌日、登山愛好者サイトに御嶽山9合目にある五の池小屋の写真など70枚を投稿。これに気付いた下呂市職員が同17日に下呂署へ通報した。
 同市防災情報課は「引き続き規制中の火口から半径2キロ圏には立ち入らないでほしい」とコメントした。

御嶽山規制区域に立ち入り=43歳会社員書類送検時事ドットコム)など、多数の商業ニュースサイト

 このヤマレコユーザーは御嶽山の立入規制区域に入っただけではなく、それを『ヤマレコ』の山行記録に書いてアップロードしていたのである。

御嶽山の入山規制区域内に入った山行記録(オリジナルは『ヤマレコ』の運営により削除されているためウェブアーカイブへリンク):
・2015年06月11日(木):継子岳 濁河温泉小坂口より [山行記録] - ヤマレコ

 6月17日、御嶽山の入山規制区域内に入った山行記録の存在に気がついた下呂市職員が下呂署へ通報。『ヤマレコ』は、6月27日に当該記録の削除。

御嶽山の山行記録の削除について

6月11日に御嶽山の立ち入り禁止区域に入ったと思われる山行記録が投稿されていた件について、警察の捜査のためデータ削除を一時的に保留しておりましたが、本日6月27日に該当する山行記録を削除いたしました。
立ち入り禁止区域に入るなどの法令違反行為を投稿することは、弊社の利用規約にて禁じられており、利用規約に則り削除を実施しております。

御嶽山の山行記録の削除について株式会社ヤマレコ

 そして、9月7日に書類送検された。

 実は、入山規制区域内に進入する山行記録がアップロードされている事は何年も前からあり、『2ちゃんねる』のヤマレコスレ住民の一部から問題視されていたことであった。 特に浅間山の前掛山より先の立入規制区域に侵入する山行記録は多くアップロードされていた(*2A)。 そして、御嶽山であのような事が起きても、未だに立入規制区域に入った山行記録が『ヤマレコ』にアップロードされ続けている。 浅間山や御嶽山以外で、立入規制区域侵入の記録として最近話題になったものには”蔵王山・馬の背登山道”がある(*2B)。

*2A:2015年12月現在で、私が確認したところでは6件の山行記録が現存する。なお、『YouTube』にも3件の動画が存在する。かつてはもっと沢山の記録があったと記憶しているが、あくまで記憶である(ようは証拠を提示できない)。
*2B:2015年12月現在で、私が確認したところでは15件の山行記録が現存する。そのほか『YAMAP』にも4件存在する。 なお、当該山行記録の中には、「バスの運転手から今は歩いてもよいと聞いた」「後ろからきたグループがレストハウスの事務所で確認したら、行くなら自己責任でOkとの事と確認したようなので」と書いているものがある。 これについては私が宮城県庁に確認をした。そのときのメールはこちら ⇒ 「蔵王山「馬の背登山道」の現在状況について」(回答いただいた職員に迷惑がかからないよう、職員に関係する情報はマスクしました)。
*補足:冬季の男体山も毎年冬の時期になると登頂の是非が話題になる。 冬季男体山の場合は浅間山や蔵王山とは立入規制の毛色が違うのではあるが、これも立入規制区域と同じ扱いにするならば、毎年相当数の山行記録がある。 立入規制区域は全国に多数あり、立入規制区域に侵入した山行記録は多数存在する。
*補足:どこまでがセーフでどこまでがアウトなのかは人によって判断基準が変わると考える。 参考に私が考えたときの文書にリンクするが、もちろんこれが正しいと言うつもりない。あくまで一つの考え方である ⇒ 「立入禁止区域に侵入した山行記録の「越えてはいけないライン」はどこか」。

◆登山者と山小屋スタッフ間、またはパーティメンバー間の個人的いざこざを一方的な形で書いた山行記録

 とある商業サービスについての非難をサイトやブログに書いた場合、 その内容によって、サービス提供業者に対しての非難がコミュニティ全体に沸き起こるか、 あるいは逆に「こいつはクレーマでは?」という話になり、サイトやブログやが炎上する事になる。最近では『Twitter』で炎上する事例も多い。

 『ヤマレコ』においても似たような事象がある。それは、『ヤマレコ』の山行記録に書かれた「山小屋への非難」である。 内容的の多くは「山小屋のスタッフと揉めた。スタッフが悪い」「山小屋の人の態度が気に入らない」というものになる。 しかしながら、実際には登山者側にも非があったり、求めたサービスが過剰なものと解釈できる場合もあり、その場合は当該山行記録を書いた人への非難が沸き起こったり、議論の対象になる(ようは炎上みたいなもの)。 また、書き方も非難される原因となっている。例えば、ある山小屋のスタッフへの非難を書いた山行記録では「山小屋勤務は労働条件がそれほど良くないのかもしれないし、いい人材が集まらないのかもしれない」と書いている。 このような書き方では当該山荘の人でなくても山小屋に勤務されている方々・勤務していた方々の怒りを買うことは想像できる。

 また、そのような山行記録を書いた登山者の中には、その行いに筋が通っていない者もおり、それも炎上の理由と考える。 一番極端な実例でいうと、ある山小屋スタッフへの非難を書いた山行記録があった。 内容を簡単に言うと、「怪我をしたので山小屋の備品を譲ってもらおうとしたら、譲ってはくれたが苦言を呈されてムカつく」というもの。 この山行記録のコメント欄に、「山小屋の方に手助けを望むなら、それに応じてとるべき態度があるだろう」と書いた人がいるのだが、 このコメントへの返答は「おまえは人間としてどうなんだ」である。 すなわち、「自分は相手を非難するにも関わらず、いざ自分が非難の対象になった際にはその非難を許さない」という態度である。 『ヤマレコ』の山行記録に限らず炎上したブログで昔からよく見かける光景なのだが、ブログ主がこのような態度をとった場合、炎上が加速する傾向にある。

 山小屋への非難の他に、一緒に登ったパーティメンバーについての非難を書く山行記録もある(または山行記録はおとなしい書き方にして、ブログのほうで激しく書く)。 これの一番極端な例として、相手の実名がわかる形で非難する事例もあった(*2C)。

*2C:これは”ウェブで募集した即席パーティによる遭難”問題とも微妙に絡んでくる場合があると考える。 友達でもなんでもない人間同士で組んでいるため、山行中の些細な事が相手への怒りに変わるし、また、下山後に相手を非難する事をウェブに書いても実害が少ない。 なお、実例の一つはまさに「ウェブで募集した即席パーティで遭難して、その中の一人が下山後に相手の実名がわかる形で非難した」というもの(しかもその記録上からは自分の名前はわからないようになっていた)。

◆拍手目的の山行記録

 『ヤマレコ』でユーザーが山行記録を書く。別のユーザーはその山行記録を読み、その記録を気に入ったら「拍手」を送ることができる。 拍手数の多い記録は『ヤマレコ』のトップページにある「話題の山行記録」欄に掲載されアクセス数が増える事から、さらに多くの拍手をもらう事が出来る。 一般的なブログやSNSにある拍手機能と同じなのだが、こういうものが存在する以上、ある行為が流行する。 それは、拍手を少しでも多くもらおうとする行為、すなわち「拍手乞食」と呼ばれる行為である。例えば、、、

 ・山行記録のタイトルを大げさなものにして人の目を引くようにする。所謂「釣りタイトル」(*2D)
 ・「拍手返しを狙った拍手」を行う
 ・山行記録に「情報量の目安」というのがあり、記録の文章量によってA(高い)→D(低い)までシステムで自動的にランク付けされるが、ランクを上げる為に無意味な言葉を使って文字数を増やす(*2E)

 これは小手先の技でアクセス数を増やし、比例して拍手の数を増やすという方法。 特に「釣りタイトル」という手は『ヤマレコ』の山行記録に限らず、一部の商業ニュースサイトやブログでよく使われているが、タイトルの凄さに実際の内容が追いついていなかったり、 そもそもタイトルと内容が全然違う場合も有り、問題視する人も少なくない。

 拍手を増やす他の方法としては、タイミングを狙った山行(*2F)を行う、リスクの高い山行に挑戦して拍手をもらう方法がある。

 2015年7月28日、NHKの番組「クローズアップ現代」で「夏山トラブルに注意! ネット時代の登山ブーム」という回があった。 内容は大きく分けると4つあったのだが、その中の一つに「ネットで記録争い? 過熱する登山者たち」というものがあった。内容を要約する。

 登山サイト(番組内ではサイト名を出さなかったが、写っていたサイト画面は『ヤマレコ』)に登録されている山行記録は登山者にとって有用なもの。しかし、記録を競い合う風潮を生むなどのリスクを生み出している。
 登山暦6年の森浩介氏は登山サイトに山行記録を投稿してきた。コースを短時間で踏破するほど山行記録の評価は高まっていった。いつしか森氏にとって評価されることが目的となっていく。。。

 ある日、森氏は北岳に登った。その際、「登山サイトで注目される為に」山上で一泊せず、短時間で日帰り登山をした。体力的にかなり無理をしたためか、下山後、痺れなど体調に異変が出てしまった。

 幸いにも体調は回復したが、森氏は登山体験がネットで評価される状況に怖さを感じている。

 森氏は語る。「登山する人にとって登山サイトは居心地のいい空間。しかし、自分を見失う人もいるのではないか」

 やらせ疑惑が付きまとう「クローズアップ現代」という番組をどこまで信用していいのかは悩む所ではあるが、事例自体は理解出来る。拍手をより多く欲しいが為に山行で無理をしたり、 また拍手は関係なくても少しでもいい格好をした山行記録を書きたいが為に、本当は力不足で行うべきではないような難易度の山行を実行に移していく。 そのような山行を続けていくと事故に繋がっていく。そしてそれと同じ事例かそれに近い事例は実際に・・・

*2D:「釣りタイトル」について私が書いたもの ⇒ 「『ヤマレコ』における「埋もれ問題」と「釣りタイトル」」。
*2E:現在は禁止事項になっている。
*2F:例えば、東京に雪が降ったときに高尾山へ登った山行記録は拍手がつきやすい。
*補足: NHK「クローズアップ現代」の「夏山トラブルに注意! ネット時代の登山ブーム」について私が書いた感想 ⇒ 「「夏山トラブルに注意! ネット時代の登山ブーム」という番組を見て」。

3.ユーザーの遭難死

 登山を行う以上、遭難死・事故死のリスクは避けられない。 登山を扱う以上、『ヤマレコ』のユーザーから遭難死が出るのは不幸ではあるが必然的な事でもある。 『ヤマレコ』のユーザーで遭難死した人は数人確認出来るが、その中でも経緯やそれまでの活動から注目された2人がいる。yucon氏とuedayasuji氏である。

yucon氏の場合

 yucon氏は鈴鹿山脈をよく歩いているハイカーであり、2011年7月3日から山行記録を書いている『ヤマレコ』ユーザーである。 氏は道迷いや滑落を起こしている、危なっかしいハイカーであった。

 2012年07月16日、yucon氏は御池岳山頂からT字尾根(バリエーションハイキングのコース)を道中で出会ったR氏と一緒に進む。やがて道に迷い、予定していなかった谷に降りてしまった。 一日ビバークをしたものの登り返し、再び御池岳山頂に戻ることに成功。しかしながら再びT字尾根を進み再び道迷い。前日と同じ谷に降りてしまう。しかもR氏と逸れてしまった。 T字尾根に登り返すことや谷を下る事を試みるも失敗し谷で数日過ごす。22日、捜索しにきた人(この人もヤマレコユーザー)に発見された。

 後日、yucon氏はこのときの遭難について『ヤマレコ』に書いた。

 この山岳遭難顛末記は遭難から救出されるまでの記録を詳細に書いており大きな話題となった。拍手数は1000を越えた。同時にR氏への一方的な意見は議論の対象にもなった(*3A)。
 3ヶ月後には山行を再開。登山雑誌がyucon氏に取材を行い、雑誌に特集された。また登山塾に呼ばれることもあった。

 yucon氏は遭難記を書いたことで『ヤマレコ』内の有名人となり、狭い世界の中の話ではあるが脚光を浴びる存在になったのである。 それを裏付ける数字として山行記録の拍手数が遭難以降上昇している。また、山行記録につけている写真数が遭難以降上昇しており、 山行記録を書くモチベーションが上がったと考えられる(*3B)。 彼は遭難後もバリエーションコースをよく歩いており、しかも夏の低山。さらに時々、道を間違えている。遭難後は以前にも増して危ないハイキングを行っていた。

 2013年11月23日、yucon氏はまず銚子ヶ口に登り、そこからを御在所岳へ向う途中で遭難(山と高原地図では赤点線コース)。 27日に救助される。しかし28日、搬送先の病院で死亡した。

*3A:議論の対象となったといっても山行記録のコメント欄に書くとユーザー同士の戦争になる為、このような場合の多くは『2ちゃんねる』のヤマレコスレや遭難関連のスレに書かれる事になる。 この場合は「R氏について (遭難顛末記より)」のコメント欄にもある程度書かれている。 なお、書籍『ヤマケイ新書 もう道に迷わない ―道迷いを防ぐ登山技術―』に事例としてyucon氏の遭難も書かれているが、 R氏については”専門家ではないR氏がyucon氏の安全まで請け負うことは不可能”とフォローしている。
*3B:私が調べたもの ⇒ 「yucon氏遭難以前・以降における、ヤマレコ山行記録の拍手数・コメント数変化

uedayasuji氏の場合

 uedayasuji氏は八ヶ岳や北アルプスをよく歩いているハイカーであり、2012年12月22日から山行記録を書いている『ヤマレコ』ユーザーである。 氏は『ヤマレコ』内で活発に活動しており、『ヤマレコ』にはまっていたと考えられる。山行記録における氏のコメント数は6000を超える。

 氏の一番象徴的な出来事は南八ヶ岳にある権現岳の山頂看板を自分で作って立てに行ったという事。 既存の看板が壊れてると知ると、自分が新しい看板を作って立てにいく事にし、ヤマレコの日記に看板の制作過程を書いた。 看板の裏には自分のヤマレコユーザー名と、日記でuedayasuji氏に賛同したヤマレコユーザー名を書き、本当に看板を立てたのである。

 uedayasuji氏はナイトハイクが多い(これは仕事の関係上致し方ないところもあると見受けられる)。また、雪渓歩きをして雪渓の下に落ちる、物をロストするなど危険な山行をしていた。 さらに、鐘楼をピッケルで叩いたり鳥居に蹴りをいれたりして、それを山行記録に書くという事も行っていた。 しかし、こういう事に対し、ネット上で他のヤマレコユーザーから注意される事は殆ど無かった。 逆に「生還できてすごいですね!」「すごい運ですね!」「すごい体力ですね!」みたいなコメントばかりであった。 唯一、一人だけコメントで忠告し続けた人(元ヤマレコユーザー)がいたが、その忠告も途中で無くなった。

ま、それで今シーズンは終わりとした方がいいかと思います。そうでないと来年の冬はもっと危ない。たぶんおっちゃん命落とします。 僭越ながらご忠告申し上げます。

2013年03月02日(土) ~ 2013年03月03日(日):仏罰てきめん。御嶽山でごめんなさい(。。; [山行記録] - ヤマレコ

どちらにしても、ヘッドランプ+雨具+食料はどんな山でも最低装備です。uedaさんにも伝えている筈です。そのヘッドランプを忘れたなんて許されない大失敗です。登山をする者の恥ですので、ちゃんと山荘に心からの礼状を添えて早急に返却してくださいね。 疲労凍死の危険性もありました。厳しく言うのは生きているから言えるのです。そのあたりを真剣に考えないと本当に山でお六になりますよ。

2013年04月28日(日):唐松岳プチ遭難体験 [山行記録] - ヤマレコ

私はuedayasujiさんの登山歴や経験が把握しきれていませんが、大雪渓でも軽自動車ぐらいの石が落ちていることがありますよね。私が石を動かしちゃダメというのは、人がいないと思ってもいる場合もあるからです。ガレ場でもそうですがわざと落石してはいけません。人がいる可能性もあるのです。uedayasujiさんから見えていないだけです。雪渓の落石は音も無く落ちて来ますから危険です。ましてやそれを人為的に落とそうというのは言語道断。 あんまりクドく言ってもいけませんので止めますが、なんというか、いっぱいいっぱいの山行ではなくヤマレコ受け狙いのオチャラケでもなく、腹八分目くらいの余裕のある年配らしい味のあるスマートな山行をしてもらいたいものです。大阪脱出後いろいろと余りにもおかしな部分が目立ち過ぎています。ご本人は気付いていないでしょうが地獄の扉はすぐそこに開いている感じがします。命取りになる前に立て直しましょう!私からのお願いです。

2013年06月15日(土) ~ 2013年06月16日(日):春雨の槍ヶ岳で雪の下にもぐる?? [山行記録] - ヤマレコ

今回の問題は軽い方でしょうが、今のペースだとヒヤリハットの法則だと、まあ、正確に言えばあと5,6回は大丈夫でしょうが、その後でご臨終かたぶん何かが起きてしまいます。脅しじゃないですよ。心配している訳です。余計な心配ならいいですが。 たびたび長々と失礼しました。

2013年06月29日(土) ~ 2013年06月30日(日):西穂高、男は黙って登山道!廃道を行く(笑) [山行記録] - ヤマレコ

 2015年3月28日、彼は赤岳を真教寺尾根から登る。 前日にナイトハイクで牛首山まで行き、ここで幕営。この時点で標準コースタイムの2倍の時間がかかっていた。 深夜は雪が降り積もり、そのまま赤岳まで行っても下山予定の13時には間に合わないことから、下山した。

 4月11日、再び真教寺尾根へ。滑落し死亡した。

*補足:uedayasuji氏について私が書いたもの⇒「uedayasuji氏の山行記録を読み直してみて
また、他の方(遭難.net)が書いたものもある⇒「最初の転機 注目を集めた『ウケ狙い』の山行記録、『注目』を求めてエスカレートしていく問題行為」 「膨らみ続ける他者承認欲求」。ここでは「最初の転機は釈迦ヶ岳の記録なのではないか」と指摘している。これは重要な指摘と思える。
*補足:山にある看板の中でも、必要な場所に必要な情報が書いてある看板はありがたいものである。 特に分かれ道に置いてあって進行方向を示す看板は道迷い防止に一役買っている。 同時に、看板を置くということは人工物を山に置くという行為でもある。 だから地主、地元の山岳会、地方自治体ならともかく、関係ない人が看板を立てるのは微妙な話しになる。 看板は「ゴミ」と言ってしまう人もいる。 例えば、大月にある高畑山の山頂には「秀麗富嶽十二景」の看板があるのだが、 非常に目立つ看板というだけではなく、看板を置いた人の名前まで書いてある。 その結果、こういうことになるのである ⇒ 「高畑山にある秀麗富嶽十二景の看板

4.考察

 二章と三章で取り上げた事例には、ある共通点があると私は考えている。そしてそれが私がこの文を書こうと思った理由でもある。 先の事例に挙げたような山行記録を書く『ヤマレコ』ユーザーは、ウェブの”自己顕示欲充足システムに飲み込まれているのではないか”ということ。そしてその結果、下記が起きる事を危惧するものである。

 ・ユーザーが拍手目的、あるいは格好つける為に無謀な山行を行った結果、事故に繋がっていく
 ・誤った情報、または誤ってはいないが書き手には当てはまる事であっても読者には当てはまらない情報を参考した結果、事故に繋がっていく
 ・コミュニティの自浄作用が働かない状況で、これからも越えてはいけない一線を越えた山行記録がアップロードされ続けモラルが下がっていった結果、事故に繋がっていく

 また、物議を醸したユーザーは、もちろん本人に原因があると考えるのだが、周りの人間にも原因の一端はある場合も多いと思える。

 なお、念のために書くと、この事象に当てはまる『ヤマレコ』ユーザーは一部のみであって、殆どが問題の無いユーザーである。 しかしながら将来的には現象がエスカレートしていくかもしれない。 なお、現象自体は昔からテキストサイト・ブログ・ネットゲーム・ソーシャルブックマーク・ニコニコ動画・Twitterで起きていた事であって、それが『ヤマレコ』でも起きているということ。 すなわち、『ヤマレコ』に限った話ではなく、アウトドアレジャー系SNSの多くに当てはまる話と考える。

◆自己顕示欲充足システムに飲み込まれる登山者

 「ネット中毒」という言葉がある。ウェブ上での活動に夢中になり現実世界の生活に支障をきたすまでになってきている嗜癖状態のことを言う。 00年代前半、今よりまだまだウェブサービスが少なかった頃、ネット中毒者の中でも特に顕著な例が、いわゆる「ネトゲ廃人」と呼ばれた人達であった。彼らは何故、ネットゲームに嵌ってしまったのか。 それはネットゲームは「自己顕示欲充足システム」だからだと考えている。ネットゲームとは極めて単純なものではあるが実社会をモデル化したものである。 ネットゲームではユーザーが使うキャラクターと、それに紐付けされた変数「Lv」「アイテム」「装備」「ギルドやパーティ」「お金」が実装されている。 ネットゲームにおける強いキャラクターやレアアイテムの所持は、例えそれが膨大な時間の投入によって得られたサーバ上の変数値に過ぎなかったとしても、 ネトゲ社会の中で成功したということであり、他ユーザーの羨望や嫉妬を集める手段、つまり自己顕示手段そのものとなる。

 その後、この「自己顕示欲充足システム」はネットゲームだけではなく、形を変えて色々なウェブサービスに標準的に実装されるものになった。 意図したのか意図せずそうなったのかは別として、現在、コミュニティの場を提供する形のウェブサービスはほぼ全て「自己顕示欲充足システム」なのである。また、そのサービス単体ではそれほどではなくても、 他のサービスと連携することで「自己顕示欲充足システム」になっているものも存在する。『Twitter』でも、『Facebook』でも、『はてなブックマーク』でも、『ニコニコ動画』でも、『mixi』でもそうなんである。 具体的な変数名で言うと、「アクセス数」「拍手数」「マイミク数」「フォロー数」「フレンド数」「リツイート数」「はてなブックマーク数」「はてなスター数」・・・挙げればキリがない。 そして今やただの「ブログ」すら他システムと連携することで強力な「自己顕示欲充足システム」になっているのである。

 この「自己顕示欲充足システム」に飲み込まれたサイト管理人やブログ主、SNSのユーザーが、アクセス数を得たい・目立ちたいが為におかしな事をしていく。 例えば、ブログで言うと「感情を過度に煽る」「過度の著作権違反」のエントリーを書く。 『Twitter』での「目立ちたい為にモラルが低い事をし、それをつぶやく」。その結果、いわゆる「炎上」に繋がっていく。 『Twitter』はよく「バカ発見器」と言われるが、そうなった理由の一つとして「自己顕示欲充足システム」的な側面が悪い方向に作用しているというのもあると思われる。

 ブログ(Twitter)炎上の一つの形として例えば下記のような流れがある。

1段階目:あるブロガーが書いたエントリーが運よく評判になり、沢山のアクセス、ソーシャルブックマーク、コメント、被リンクをもらった。

2段階目:ブロガーはもっと評判になりたいと思い、どんどん刺激的・攻撃的なエントリーを書いていくようになる。

3段階目:刺激的・攻撃的なエントリーを書くことに慣れ、どんどんエスカレートしていった結果、一線を越えたエントリーを書くようになっていく。(例えば、「○○は本当にバカ」「○○は氏ね」などの個人攻撃や、アクセス数が欲しくて嘘を混ぜてしまう)

4段階目:相手や読者から思いがけない強力な反撃があり炎上。

5段階目:ブログを削除

 しかも今はハンドルネームが間接的に『Facebook』のアカウントと繋がっていることも少なくないため、実名バレし、住所や勤め先会社名まで明らかにされ会社を退職に追い込まれる場合もある。 また『Twitter』で炎上した場合、『Twitter』はその仕組み上、ついついリアルに紐づく呟きをしてしまう場合が多く、やはり実名バレしてしまうことが多い。

 このブログ炎上という現象が『ヤマレコ』でもおきているのではないか。先に紹介した「物議を醸した山行記録」はまさにブログ炎上のヤマレコ版だったのではないか。 「山行記録の数」「山行記録の訪問者数」「フォロワー数」「山行記録の拍手数」、 こういった数字により結果として『ヤマレコ』も「自己顕示欲の代替充足システム」になっている。 下山後、『ヤマレコ』で山行記録を公開していく。その山行記録に一度拍手を沢山もらったりすると、次からは「自分の山行記録を沢山見て欲しい」「山行記録の拍手を沢山欲しい」という気持ちが強くなり、 『ヤマレコ』に山行記録を載せることを前提に山歩きをしてしまう。 山を歩きながら「どういう感じに山行記録を書こうか」「こういう写真があったらウケるかも」とか考えてしまう。 そして、少しでも多くの拍手をもらいたいが為に、山行記録のタイトルを「釣りタイトル」にしたり、「拍手返しを狙った拍手」を行ったり、「情報量の目安ランク」を無理やり上げたりする。

 これくらいならまだいいのだが、 先に書いた ”アクセス数を得る為に無理な事・不自然な事をしていく。 ブログで言うと「感情を過度に煽る」「過度の著作権違反」、『Twitter』での「目立ちたい為にモラルが低い事をし、それをつぶやく」。その結果、いわゆる「炎上」に繋がっていく。” 、 これを『ヤマレコ』の山行記録に置き換えると「相手に対する非難」であったり、「立入規制区間への侵入」であったり、「拍手を沢山もらうためにリスクのある山行を計画し実行に移す」であったりするのではないか。 そして、『ヤマレコ』における炎上は最悪、遭難そして死亡という形で表現されるのではないか。例えばこうである。

1段階目:あるヤマレコユーザーが書いた山行記録が運よく評判になり、沢山の拍手をもらい、沢山の人からコメントをもらった。

2段階目:再び評判になりたいと思い、「山行記録で拍手を沢山もらう事」を意識した山行を行うようになる。

3段階目:拍手を沢山もらうためにリスクの大きい山行を当たり前に計画・実行していくようになる。遭難しそうになる時もある。

4段階目:本当に遭難する

5段階目:死亡

 単純化した例なので多少極端ではあるし、4段階目、さらには5段階目まで行くことはなかなか無いとは思う。 しかし、先の章で取り上げたyucon氏とuedayasuji氏はまさに5段階目までいったケースだったのではないか。yucon氏とuedayasuji氏は『ヤマレコ』に深く嵌っていたと考えられ(*4A)、リスクの大きい山行をしていた事実がある(*4B)。 物議を醸した人達もそうだが、他の人達にも2段階目あるいは3段階目までいっている場合が多々あるのではないか。 また、すでに他のウェブサービスでそういう状態になっている人が『ヤマレコ』に移住してきたという場合もあるだろう。

 立入規制区間に侵入して歩きたい気持ちはわかるが、侵入した事をおおっぴらに語るのは『Twitter』でよくある「悪い事をした自慢」と構図的に変わらない。山小屋スタッフとのトラブルは、その場で当事者同士で解決すればいい。自分の力量を超えた山行・リスクの高い山行はしてはいけない。しかしながら・・・

 ・「自慢したい」から、立ち入り禁止区域に侵入する記録を『ヤマレコ』に書く
 ・「同意が欲しい」から、山小屋スタッフとのトラブルを『ヤマレコ』に書く
 ・「格好いいところを見せたい」「目立ちたい」から、リスクの高い山行をし、それを『ヤマレコ』に書く

 そして、「自慢できた数」「同意してもらえた数」「格好いいところを見せれた数」「目立てた数」が拍手数によって可視化されるのである。 一回、沢山の拍手をもらえると気をよくして、次の山行からは”『ヤマレコ』に記録をアップロードする事””拍手をもらう事”が目的の一つになってしまう。

 「自己顕示欲充足システム」に飲み込まれたケースはこれからも出てくるだろう。そして、これに起因した事故がこれからも発生していくのではないか。これは恐ろしい事だと、私は思います。

*4A:yucon氏とuedayasuji氏の山行記録については私が調べたものがある ⇒ 「yucon氏遭難以前・以降における、ヤマレコ山行記録の拍手数・コメント数変化」 「URLクリップ」 「2012年07月遭難後に書かれた山行記録を読んでみたけれど」 「yucon氏の遭難記のブログ版を読んで」 「uedayasuji氏の山行記録を読み直してみて」。
*4B:uedayasuji氏の遭難について、「山と渓谷(2016年2月号)」で羽根田治氏が「実力以上のコースに挑んだ”楽観主義遭難”」としている。 その背景としてウェブ上での活動があったのではないかというのが私の主張。
*補足:物議を醸している人達に「自己顕示欲充足システムに飲み込まれている」とか「ウェブの暗黒面に落ちている」とか「ネトゲ廃人と同じ」とか言っても自覚がないと予想できる。これについては2008年に私が書いたものがある。 ⇒ 「MMORPGとニコニコ動画は根本的な部分で同じ」。 また、そもそも昔からウェブ上のシステム全てが「自己顕示欲充足システム」だと言う人がいると思う、それはそれでその通りと考える。 但し、今は色々なウェブサービスが存在しお互いに影響しあう為、作用が昔より強力になった。昔はサイトのアクセス数や『ReadMe!』をはじめとするアクセス数ランキングサイトの順位くらいしかなかった。
*補足: 私は”自己顕示欲充足システムに飲み込まれる”と言っているが言い方自体は色々ある。2014年に中杜カズサ氏が言った「ブログ暗黒面」(ネットで昔から存在した「アクセス津波」のお話 、「ブログ暗黒面」とは何か)、 昔、テキストサイト界隈で言われていた「アクセス至上主義」や「脳死」も分野が違うから言葉が違うだけで似たような現象であると考える (イコールではないが、重なる部分が多いという意味)。 また、登山SNSを「ネットのかまってちゃんの集まり」と言っている人もいる。言い方が違うものの私が感じている事と近いのではないだろうか。 「自己顕示欲充足システム」という言葉自体はかつて、とあるMMORPG界隈の一部で使われていた言葉であって、 当時私がそこにいたという事と、「先に言葉を考えた人がいるならその人に敬意を払い、その言葉・単語を極力そのまま使う」という考え方から、この文でもこの言葉を採用している。 拘りがあるわけではないのでより適切に表現出来る言葉があるのであれば、そちらにしてもいいと思う。

あるベテラン登山ガイドは、山行記録を投稿する某Webサイトを指して「ネットのかまってちゃんの集まり」と揶揄する。

山ガールはどこに消えた? 高齢登山者の遭難増加! 1000万人が楽しむ登山の姿 (3) 新たな登山者の開拓が大きな課題マイナビニュース

このように、そこに紹介されると自分のブログに対して激しい流入が起こるサイトやサービスというものは昔から存在しています。が、このようなところで紹介されてアクセス津波が起きたとしても、絶対に上がったアクセスはほとんど元の通りまで下がってゆくこと。考えてみれば当然です。紹介されるニュースのリンクはそこが新しいものに更新されれば流れますし、そうすればリンクからの流入も減ります。しかし、1度上がった喜びとは逆に、連日下がり続けているアクセス数を見ると、心理的マイナスを抱いてしまうことがあるかもしれません。

しかし、ここで下がってゆく(実際は元に戻っているだけの)アクセス数に焦りを感じて、ブログの内容より無理にアクセスを戻すことを意識してしまうと、「ブログ暗黒面」に墜ちてしまうことになります。これは造語ですが、具体的にはリンク受けのいい記事を狙ったり、直接リンクされるように工作することを考えてしまうことを指します。つまりは今までのスタイルを崩してアクセス至上主義になってしまうこと。そしてそんな感じになったサイトも今まで幾つか見てきました。思い当たる人もいるでしょう。

ネットで昔から存在した「アクセス津波」のお話空気を読まない中杜カズサ

◆ウェブ上の情報をどこまで参考にしていいのか

 ウェブで検索し、ブログや『ヤマレコ』にアップロードされた山行記録を読むことで、これから歩く登山コースの参考・事前調査が簡単に出来るようになった。大変便利な時代である。 問題はこの情報を”どこまで信用していいのか”という事である。 ブロードバンドが普及して間もない2004年の段階で金邦夫氏がこう指摘している。氏は当時、青梅警察署の山岳救助隊であった。

 もう一つ気になるのは、インターネットが今爆発的に普及しています。 今の中高年は、皆インターネットで引き出して、参考にして山に来ているのです。 インターネットでは、ホームページを持っている人は書き込みが自由です。 どこへ登った、あそこに登ったという自慢話も書き込めるわけです。 道のないこんなところを登ったとか、たいしたことはなかったなど、そういう自慢や誇張、ホームページでは公序良俗を犯さない限り書けると思うのです。 それを活用する側には、それなりの目がなければだめだと思うのです。

H16全国山岳遭難対策協議会報告書

 ある人が山行記録をウェブ上にアップロードする。その山行記録に誤ったことが書かれていて、その記載を信じた人が遭難してしまった。 しかし誤った事を書いた人が責任を問われることは基本的には無いだろう。誤った事を書いても所詮は素人が勝手に書いて勝手にアップロードした記録。 読んだ側も勝手に読んで勝手に遭難しただけ。誤りを書いた事によるペナルティが発生しない。 そのような状況で、全員が質の高い信頼出来る山行記録を書けるのか。

  ・拍手が欲しいと思って書いた山行記録は、出来事を大げさに盛って書いてあるかもしれない
  ・自分を大きく見せたい人が書く山行記録は、コースタイムを短く見えるように書いたり、難儀した道も「たいしたことなかった」と書くかもしれない

 また、誤ってはいないが書き手には当てはまる事であっても読者には当てはまらない場合もある。 山行記録に限らず、ウェブが社会に及ぼす影響として「情報が氾濫し、必要な情報の取捨選択が難しくなる」と言われている(*4C)。 従ってウェブ上にアップロードされた記録を参考にするのであれば、複数の情報源から情報を取得し複合的に判断する必要がある。

 『ヤマレコ』には噴火危険等で立入規制区域に指定された登山道に侵入した山行記録が沢山ある。 これを見た一部の登山者は「赤信号みんなで渡れば怖くない」の通り、「沢山の人が歩いてるなら大丈夫だろう」という考えになることが予想できる(*4D)。 また、歩く為の理由づけに都合よく使われることも予想できる(「他の人が歩いているから、歩いていいと思ってました」)。 言うまでもないことだが立入規制区間に指定するには意味がある。歩いているときに噴火すれば最悪死ぬことになる。 一端事故になれば、自治体は救出の為に多大な労力を使うことになる。

 ウェブ上にある、山小屋に対する評価を書いている文書は有益な情報を書いているものが殆どであるが、 攻撃的なことを一方的に書いている場合もある。 もちろん、本当に評判の悪い山小屋や登山口の鉱泉もあって、苦情が書かれて仕方ない場合もある。 その様な場合は複数の情報源があって、皆だいたい同じような内容の苦情を書いている。 そうではなくて、登山者と山小屋スタッフ間のいざこざの場合、 これをどこまで信用していいのか、どう考えるべきか、難しい問題である。 攻撃的・否定的な事を書かれてサービス提供側が困ったというのはよくある話で、 最近よく聞くのは『食べログ』に悪い評価が書かれて店主が困ったという話(*4E)。 料理の味は毎回100%同じものを再現するのは不可能であって、 たまたま出来が悪い時に食べたものを元に低い評価を書かれては困るという店主の言い分は理解出来る。

 ウェブの過去を振り返ると、飲食店、特にラーメン店のレビューは90年代から個人サイトで盛んに行われていたが、他にはゲームソフトのレビューが盛んだった。テキストサイトの一部はその流れを受け継いでいるとも言える。 ゲームソフトのレビューで、「このゲームのここはヒドイ」「あれはクソゲーだろ」と書かれていた場合、 読者は実際にプレイすることによってそれを体験(再現)し確認ができる。 また、ネットゲームでは「運営が悪い」とユーザーによく書かれる。内容の多くは「BOTやRMT業者の問題」と「サーバーの稼働状況(サーバーが重かったり、よく落ちたり)」になるのだが、 これもユーザーであればBOTやRMT業者を簡単に確認することが出来るし、サーバーが重いかどうかもログインすればわかる。 ようは、ユーザーの大部分が認識している事だからこそ、非難が許されてきたという側面がある(大多数のユーザーが共通して感じている事を、たまたまとあるユーザーが代弁しただけ)(*4F)。

 特定の山小屋への非難を書いた山行記録やウェブ上の記事のうち、登山者と山小屋スタッフ間のいざこざの場合、 文に書かれた事の真偽は当事者しか判らない。また、 ”その文を書いた登山者にとって致命的に都合の悪い部分は書かない”ことが容易に想像できる。 従って”何割かは話を盛って書いている”可能性を頭に入れ、鵜呑みにはしない事が必要だろう。 そしてこれは逆のパターン、つまり”山小屋側がブログで登山者を非難した”場合にも当てはまる。”誰もが体験(再現)できる”事なのか。それとも”当事者しか真相は判らない”事なのか。読者側はそれを判断してから考える必要があるだろう。

*4C:例えば ⇒ (3)インターネットの効用・社会的影響 : 平成17年版 情報通信白書
*4D:似たような事例として「他のグループが立入規制区間に入ったため、私達も自己責任で入った。そのときおじさんから注意されたが無視した」という内容の山行記録が存在する。
*4E:例えば ⇒ 【ラーメン店主】ネットで評価する人たちに苦言 | 日刊SPA!。 食べログ「まずい」クチコミに店激怒 「客減った!弁償しろ」裁判はどうなる : J-CASTニュース
*4F:更に言うと、「テキストサイト」の起源の一つであるゲーム系論評サイトやそれの元となった書籍は、 駄作ゲームソフト(クソゲー)をただただ罵倒や非難をしたのではなく、書きかたを工夫し面白テキストとして昇華している。 その為、読者は「そのクソゲーを一度やってみたい」と言う気持ちになり、クソゲーの代表作「里見の謎」や「デスクリムゾン」は90~00年代の中古ゲーム市場で高額取引されるまでに至った。 ちなみに山行系のブログにも、ただただ山小屋の悪い面を書くのではなく、意味有るテキストとして昇華したものが存在する(農鳥小屋について書いた文に多い)。
*補足:「直接小屋に文句を言っても無駄なことが多い。利用したサービスに対して公の場で評価を与えるのは利用者の当然の権利。 何故褒め言葉は公の場で惜しみなく与え、クレームは個別にこっそり伝えなければならないのか?」と書いている人もいる。これはこれで筋の通った意見と思える ⇒ 「山小屋のサービス - karakuchiさんの日記 - ヤマレコ」。 従って、山小屋への非難を書く事自体を否定するつもりはない。ただ、これに一点補足したい。”相手を批判するものは、同時に自らも批判の対象となる”のである。 山小屋を非難する文を書き、ウェブに公開したのであれば、その非難文自体が批判の対象となり、書き手に様々な評価が下るのは自然な事である。 そして、その非難文に行き過ぎた記載があると読み手が判断すれば「こいつはクレーマー」と言われるのは止むを得ない事である。 非難文を書くのであれば、自らも批判の対象となり、内容によっては自分も非難されることを前提にすべきだし、批判されたくないのであれば、その場で直接当人に意見し、その場で解決させ、ウェブには書くのは避けるべきだろう。

SNSでの登山情報の違和感を、最近強く感じます。FBのコミュニティーや登山記録集などの情報を鵜呑みにするようなコメントも多くやりとりされていて、とても危険に感じています。

ルートの状況をSNSから拾い上げて、それを全く精査せず鵜呑みにしてしまう登山者が多くなってきたように感じるからです。「アイゼンは必要ありませんでした」などのコメントは、その登山者が登った状況でたまたまそうであっただけで、すべての状況に当てはまるわけではありません。

SNSでの登山情報について思うこと(5/15)入笠山の山小屋 「マナスル山荘本館」

私が面識のないユーザーさんのレコを拝見する際に気を付けていることは、その人のレコ上での山歴です。
幸い、ヤマレコは登山歴が明らかなので(少なくともその人がレコをあげている分については)、その人の力量が比較的見当がつきます。
(言い換えると、レコに上がっていない山歴については私は少し懐疑的です。
(例)18~22歳まで山岳会に所属してアルパイン経験を積み、就職したのちに山から遠ざかり、50歳で山を再開し、かれこれ10年百名山を中心に登っている、レコはここ3年のみアップ→この場合、ここ3年の山歴のみを材料として、その方の力量を判断させていただいています。 ←話が本題からずれました。すみません。)

例えばある人が日帰りで行っているコースがあって、「お、これは楽しそうだ」と思っても、その人の過去レコを拝見して、黒戸や早月を日帰りしていれば、私がそれを真似してはいけないことは明白です(笑)
(レコにはこのレベルはごろごろいますが…)
でもこれはその人の健脚ぶりをはかるバロメータであって、技術力についてはよく分かりません。
山を始めて1年目の人が北鎌に行ったり、八ヶ岳のバリエーションに登っているレコを拝見した時、その頃初心者だった私は素直にその方を尊敬したのですが、のちにそれがガイド山行であったことが判明し、衝撃を受けたことがあります。
(今なら大体分かりますが、その頃は分かりませんでした。あの頃は素直だった…)

書き手が正直で誠実な人だと、ガイド山行であること(もしくは熟練者に連れて行ってもらったこと)などを明記している場合もありますし、 中には親切にガイドのHPまで紹介してくれている場合もあります。
しかしながら、見栄なのかなんなのか、そういうことを一切書かず、まるで自分の力だけで登ったかのようなふりをしているレコも時々見かけます。
そしてそういう方に初心者が質問をし、書き手がこともあろうかそれに対してずいぶんと適当なアドバイスをしているケースを見ることもあります。
もし書き手がガイド山行であることを明記していたならば、決して質問者が質問しなかったであろう内容の質問である場合もあります。
(山の状況ではなく、技術的な質問など。)
こういう書き手は実生活で満たされないリーダーシップへの欲望や、得られない尊敬を、自分の正体が分からないSNSの世界で満たそうとしているのではと勘繰らざるを得ません。

山に登るのは確かに自分の足でなのですが、山というのはルートファインディングや安全確保、非常時の判断も含めてその人の力量なのですから、 そういう部分を人に頼っておきながらそれを明記しないのは不誠実であるばかりか、レコを参考にしている人(特に初心者)に誤解を与え、危険に導く可能性すらあることをよく考えてほしいです。

「誰と行ったか」書いてくれ - karakuchiさんの日記 - ヤマレコ

インターネット TVメディアなどを 活かすも 活かさないのも 使い方 次第。

そうした 情報洪水の中で 自分の実力を 正確に把握しつつ 的確な情報を取捨選択していく 選別力を高めてていかなくてはいけない。

そのさい くれぐれも 自己過信せず 謙虚に 自分の 実力を悟って、 危険性を けっして軽視することのないように 今後とも 注意していかなくてはいけない。

インターネットの上で 山情報を発信したり 情報を受け取るとき 心がけなくてはいけないのは、とかく 人間は おだてられやすく うぬぼれやすく なんでも つい背伸びしたくなりやすく、すぐに なんでもできる、 可能と思いやすく、恐ろしいほど 自己過信に 陥りやすく、自己の足元を顧みないで おごり、つい有頂天になってしまう 傾向があるということ。

だから、つねに 自省し 素直に自分の実力を見極める 謙虚さを くれぐれも忘れないように していきたいものだ。

活かすも 活かさないのも 使い方次第 常に危険性をもつ 山ネット情報趣深山 よもやま話

◆ウェブのコミュニティでは自浄作用が働かない。その結果としての「晒しスレ」の存在と「外圧の必要性」

 文章を書いてウェブにアップロードしたら、それは評価の対象となる。 そしてそれは、いい評価をもらえるときもあるし、また、文章の内容に問題があれば悪い評価をもらうことになる。 文章で他人や組織を非難した場合、その内容によっては自らも非難の対象となる。 他人を非難した結果、自分がより大きな非難を受けるのはよくある話で、「ブログ炎上」の一つの形である。

 炎上したサイト、ブログ、Twitterなどで、本人に明らかな非がある場合であっても、本人が過ちを認めることは殆ど無いと言っていい。 本人にとって反論などいらないのである。欲しいのは自分への”同情”と”同意”。 だから、「私はこれこれこういう事があってムカつくのですが、皆さんはどう思いますか」と書いてあるブログのエントリーに、 素直な読者がコメントに異論を書いたらブログ主からただただ罵倒されるという光景はたびたび見かける。

 例えば、テキストサイト界では、このような事例を「脳死」と呼んでいた(本当の脳死患者に失礼な呼び方ではある)。

現在ではネットの公共性をわきまえない言動をするテキストサイト管理人を「脳死」、 そのサイトを「脳死系サイト」と呼ぶ。(参考・テキストサイト大全) 具体的には自サイトに揉め事の種となる文をアップする、他サイトを誹謗・中傷する、 他所の掲示板に意味不明な怪文を何度も投稿する、他所のテキストをパクる、 その他アクセス数やネゲットを目当てに迷惑な行動を取ることなどが脳死的行為に該当する。

「脳死スレ」のテンプレ

 彼らに苦言を呈しても無駄であり、ただただ「サイト」対「サイト」の戦争になってしまう。戦争になれば時間も労力も消費する。 それが続いていくと、やがて「サイト」対「サイト」の直接争いやウェブサービスのユーザー同士の直接争いを避ける方向に進んでいく。 すなわち、『2ちゃんねる』に「ウオッチスレ」「晒しスレ」「議論スレ」「隔離スレ」というものが登場し、そこで話題にするという流れになる。 ようはスレで「こういう人がいますよ」と”晒す”のである。 そしてそれがエスカレートすると、スレをまとめたサイトが登場する。 これらのスレの存在価値は問題のある人を”周知”できることにある。つまり「こういう人がいるから気をつけましょう」という事である。”触らぬ神に祟りなし”という現実的な解決策であり、 コミュニティによってはこれが上手く機能している場合がある。もっとも、ただ単に”目立つ人を晒してるだけ”の場合が多い事も事実なのだが。

 『ヤマレコ』でも似たような所がある。明らかに本人の行動に問題がある山行記録に他のユーザーが直接苦言を呈しても効果は無い場合が多い。 また、攻撃的な事を書く人間は、それに苦言を呈した人にも攻撃的対応をとることが予想される。 従ってユーザー同士の直接争いを避ける為、 山行記録のコメント欄で苦言を呈する例は珍しくなり(苦言を呈する場合も捨て垢を使う)、『2ちゃんねる』の登山・キャンプ・アウトドア板の各種スレッドに書かれるという事になる(例えば遭難ならパンパカスレ)(*4G)。

 こういった状況で自浄作用はまず働かない。”晒す”事による”周知”が限界。それを変えるには外圧が無いと無理である。御嶽山規制区域に立ち入った山行記録が『ヤマレコ』の運営によって消され、書いた人が書類送検されたのも、下呂市職員が下呂署に通報したためではないのか。 立ち入り禁止区域である浅間山火口に侵入した山行記録がいつまでも残っていた過去から考えるに、 御嶽山の立ち入り禁止区域に入った山行記録も”警察”という外圧がなければ消されずにいつまでも残っていたかもしれない。

 従って、越えてはいけない一線を越えた山行記録があった場合、然るべき自治体・警察に通報するしか対応方法がない。 さらに言うとグレーな山行記録については、実行力がある形で手をうつ方法は無いかもしれない。

 自浄作用が働かない状況で、これからも越えてはいけない一線を越えた山行記録がアップロードされ続けていく。その記録が消されずに残り続け、コミュニティ全体のモラルが下がっていった場合、結果として事故に繋がっていくのではないだろうか。

*4G:ちなみに登山・キャンプ・アウトドア板には『ヤマレコ』専用のスレッドもあるのだが、本スレしかない状況の為、単なる最近の話題から立入規制区域侵入者晒し、個人攻撃まで何でもありの混沌とした状況になっている。

◆物議を醸した登山者だけの問題なのか

 登山業界はこれまで山を観光地化し、装備をファッションにし、本来山に登らないはずだった素人を山に上げてきた。山ガールという言葉を流行らせたのはそのいい例だろう(*4H)。 山に行かないはずだった人間を山に上げるとはどういうことなのか。 彼らは山の暗黙のルールを知らない。山に対する知識も教養も無い。そのような人が山小屋に下界に近いレベルの過剰サービスを要求するのは自然な事とも思える。 装備がいい加減なのは当たり前なのではないだろうか。貴重な山小屋の水を無駄使いするのもしかたないのではないだろうか。 登山をファッションでやっている人、出会い目的でやっている人、そういう人達も最低限の山屋に仕立て上げるシステムを作らないといけない。そういう時代になったのではないだろうか。

 『ヤマレコ』はならずものを長い間放置してきた。 『ヤマレコ』がやったもの勝ちの世界になっていた。そのような状況であるから、 立入規制区域に入った記録とか、立入規制区域に入る人を注意した人をバカにする記録とか、 山小屋の悪口を書いた記録とか、鐘楼をピッケルで叩いた記録とかもアップロードされるのは自明である。 また、サービスを提供した側と受けた側のいざこざについてサービスを受けた側が一方的に近い形で非難する事は、『食べログ』等でよく見る光景であって『ヤマレコ』を初めとした登山系SNSに限った話ではない(『ヤマレコ』はむしろまだいいほうであると言える)。 ウェブサービスの提供会社はそういう人間達に発言の場を与え、いいように利用してきたという、これまでの歴史がある。

 物議を醸した山行記録にも拍手が沢山ついているが、拍手した人はどういう考えで拍手したのか。立入規制区域に侵入することに賛成なのか。山小屋も下界と同じレベルのサービスをすべきという事なのか(*4I)。ただ単に何も考えずに拍手ボタンを押しているのか。 拍手ボタンを気軽に押していないか。押した人間にとっては特に意味の無いただの拍手であっても、受け取った人間にとっては意味のある拍手ととるかもしれない。

 yucon氏は御池岳T字尾根での遭難以降、雑誌の取材を受けたり講演に呼ばれたり、挙句の果てには「遭難した場所にもう一回行ってみる」というものまであった。 これを当時、私が見たとき「危ないことをしている」と思った。周りから煽てられ調子に乗り、やがて炎上するブログとイメージが重なった。 そしてそれは・・・。 yucon氏が再び山に行くようになったこと自体に他人がとやかくいう権利はないと思うが、多くの拍手によって結果的に彼を持ち上げたヤマレコユーザーの行為は正しかったのだろうか。

 物議を醸した登山者達は、もちろん本人に原因があるのだが、周りの人間にも原因の一端はあるのではないだろうか。

*4H: 今回の主旨とは外れるのではあるが、 私がとある山小屋に宿泊した時、山や山小屋の写真を撮って出版社に提供しているプロの写真家と登山者の会話が興味深かった為、要約したものをメモしておく。 写真家の名前は抑えているのだが、盗み聞きなので名前は出せません。ようは根拠を提示できない為、これこそ鵜呑みにしてはいけない情報という事にはなる。便所の落書きだと思って読むこと。
登山者「写真家さんは出版社から仕事をもらって写真を撮りに行くのですが?」
写真家「そうだよ」
登山者「ならば聞きたいのですが、某登山雑誌や某登山雑誌は、装備さえ整えれば高山や冬山に登れるみたいな風に書きますよね」
写真家「そうだね」
登山者「これっておかしくないすか。そんなに気軽に登っていい山ではないと思いますけど」
写真家「しかも記事中の写真を多めにして山ガールの写真も使って、山ガールも普通に登ってるという形の記事にするんだよ。そうするとそのルートにある山小屋は宿泊数が伸びるんだ」
登山者「それ、いいんですか?危ないですよね」
写真家「普段は山に登らないような人を取り込もうとしているからね。俺もそういう記事用の写真を撮ってくる仕事もらう時あるし。止むを得ない事なんだよ」
*4I: 実は「山小屋も下界と同じレベルのサービスをすべき」と書く山行記録・コメントは意外に多い。 現在は山小屋に下界並みのサービスを求める人が少なくない数で存在する事を、山小屋側は意識した運営をする必要があるかもしれない。
*補足:山とは全然違う分野だが、ここに書いた事と根本的な部分で似ている指摘がある。「酒場の水問題」と呼ばれる「居酒屋で水ばかり頼む人」に関する問題。 簡単に言うと「普段は酒場に行かない人達がウェブの情報を頼りに酒場へ来るようになった。彼らは酒場の文化を知らない為、酒はあまり頼まず、無料の水ばかり頼んで長居する。 店側は酒・ソフトドリンクの売り上げによって経営が成立っていることから、客にソフトドリンクを頼むように言うと言い争いになる」という話。

しかし、2009年の春頃、次のような言葉を親しい居酒屋やダイニングバーなどで同時多発的に聞くようになったのだ。

「ドリンクのオーダーを取りに行ったら『水をください』と言われて驚いた」「お酒を飲めない方にはソフトドリンクがありますが、と対応したら『水でいいです』と逆ギレされた」「最初の一杯だけビールだが、あとはジョッキに水をお代わりするグループがいた」など。

店側は当然、水を飲ませたくない。なぜかというと、酒やソフトドリンクの売り上げは、居酒屋や飲食店の経営の要だからである。そして、杯を重ねてもらう、たくさん飲んでもらうために美味い料理(ツマミ)をリーズナブルな値段で、提供している。

逆に言うと、お客は酒とセットであるが故に、リーズナブルな料理に舌鼓を打つことができる。だから酒を飲めない人も、酒の代わりにソフトドリンクを飲む。あえて言語化されないルールで全国の酒場は存在し続け、そこで酒場の文化が熟成されてきた。

「酒場の水問題」、居酒屋で水ばかり頼む人を許せますか?CAMPANELLA

酒場の水問題が多発する原因の1つは、グルメサイトやSNSが、従来は「酒を飲む場には行く習慣がなかった人たち」と「居酒屋、ダイニングバーなどの酒を飲む場」を「つなげた」ことにあるようだ。

もともと外で酒を飲む習慣がないから、居酒屋やダイニングバーで他の客たちが酒を飲んでいるのを見ても「飲みたい」とならない。そして、「少しでも安く楽しみたい」という気持ちを持っているため、無料の水道水を頼む。「ワンドリンクお願いします」と店から言われると、「どうして水がダメなんですか!」と、言い争いを始めたりする。

「水ください」という人は、ネット経由で酒場にやって来たCAMPANELLA

結局のところ、この問題ってすごく難しくって、
最初に書いた通り「水をオーダーする事自体が悪いわけじゃない」っていう事もあるし、
中には「長居して貰って構いません。オーダーなくても構いません」っていう個人の飲食店があるのも事実なんです。

それはお店の方針だから仕方ないんだけど、
本当は、本気でそこに生活をかけている飲食店主に対して失礼だよね、とは思う。

まぁ、でも、そんなことを言っても始まらないし、
食べログだってTwitterだってFacebookだって、こっちの意見なんて聞き入れてくれません。

だったら頑張って伝えていくか、
それともSNSが求める形の店に方針を変えていくかのどちらかしかないのかもしれません。

食べログから来るお客の質が低い理由|飲食店の水問題 異業種からの参入で小さな飲食店をやってるけど何か質問ある?

◆山行におけるインターネットの功

 ここまで山行にインターネット、特にウェブが悪影響を及ぼしていると書いたが、実は良い影響も沢山与えている。 そもそも登山SNSやブログを使って山行記録を簡単にアップロード出来るようになったこと自体が基本的には功なのである。 山行記録が下山後すぐにアップロードされることによって、例えば先週の大雨の影響とか山の新鮮な情報を手に入れやすくなった。 また、山道の写真や歩いた感想を読むことが出来、自分の山行の予習がしやすくなった。特に道迷いポイントを事前に知ることが出来るのは大きい。 電車やバスの時刻表も簡単に調べることができ、山行の計画を立てやすくなり、計画書をオンライン経由で提出できるようにもなった。

 ウェブから地形図をダウンロードしスマートフォンに保存することで、山行中にスマートフォンで地図を見ることができ、 さらにGPSと連動させることで、自分の位置をかなりの精度で地図上に示すことが出来るようになった。 以前から山行専用のGPS機器は存在したのだが、高額であった。 今や多くの人が常に携帯しているスマートフォンが山行専用GPS機器に近い性能を持つようになった。これは山歩きにとって革命的な事だと思う(*4J)。

 女性目線の山小屋レビュー、戦後から現在までの装備の変遷史、テキストサイト亜種なおもしろ山行記録サイトなどニッチな需要に応える"濃い情報"が書かれた個人サイトが沢山存在する。こういう仕事は商業では不可能。個人サイトだからこそ出来ることである(*4K)。

 インターネット技術の向上が山行に与えた影響は大きい。しかも良い影響のほうが圧倒的に大きいといえる。 ただ、ウェブ上にはならずものの山行記録も沢山ある。全体からすればほんの一握りかもしれないが。 ここでは、その山行記録が及ぼす影響を危惧しているだけなのである。

*4J: スマートフォンのGPSに頼る事に否定的な意見もある。 私もスマートフォンのGPSを駅近郊の低山ハイキングから森林限界を越えた雪山登山まで合計して100回近く使ったが、使うにあたって気をつけねばならない点が多いのも事実としてある (今回の主旨からは大きく外れるためここには書かない)。 また、そもそも地図とコンパスで自分の場所を割り出せない人がスマホのGPSを頼りにしていいのかと指摘する人もいる。
*4K: 今読んでいるこの文章自体が(内容の良し悪しは別として)まさに「個人サイトだからこそ書ける内容」。登山雑誌や商業サイトがこの内容を書くのは無理だろう。

5.最後に

 昔、ハイパーダイアリー~テキストサイトの時代。割れ物が置いてあるサイトが無数に存在しウェブにまだアングラな空気が漂っていた時代。 ウェブに学術色が強かった初期を覗けばウェブ上で使うハンドルネームと実名との紐づけは基本的には無かった。 正確に言えば当時から完全な匿名性というものは無いのであるが、 一部の人を除いて、ウェブで活動する人は実生活に繋がる情報をウェブ上に出さなかった。出さないよう意識して活動していた。 また、実生活ではウェブ上の活動を表面に出さなかった。出さないよう意識していた。 従って、とあるハンドルネームの実名や住所を調べることは大変困難な事であった。 そんな時代、サイトが炎上しても最悪はサイトを潰せば良いだけだった。そうすればハンドルネームは死ぬかもしれないが実生活に影響を与えることはない。 あるいは炎上しても無視してサイトの更新を続ければよかった。つまり、ウェブ上の活動と実生活が切り分けられていた。 ウェブ上の活動が実生活に影響を与えたとしても、それは例えば夜中までウェブを見ていたりネットゲームにログインしていたせいで、 学校や会社に遅刻や欠席をするといった事であり、所謂「ネット中毒」や「ネトゲ廃人」というものであった。

 『Twitter』が普及すると簡単に呟けることから、ついつい個人情報や実生活に繋がる情報を呟いてしまう傾向がある。 スマートフォンの普及以降は”いつでも””どこでも”『Twitter』で呟けることからこの傾向は加速した。 さらに、『Facebook』が普及するとウェブに実名を公開することが珍しくない状況になった。 ウェブ上の活動・ハンドルネームと実生活・実名を紐付ける事が珍しくない時代になった。 そんな時代に炎上すると、影響はウェブ活動だけに留まらない。 対象者の実名が晒されるのはもちろんの事、住所・通っている学校名・或いは勤め先まで炎上に巻き込まれる様になった。炎上が実生活に多大な影響を及ぼす時代になったのである。

 即ち、「ウェブ上の活動」と「実生活」が組み合わさる事で生まれるリスクを改めて考えなければならない時代になった

 このページで示した例は「ウェブ上の活動」と「実生活」が組み合わさる事で生まれるリスクの一例である。 『ヤマレコ』を始めとした登山SNSは「実生活の一つである登山」の記録を「ウェブ上にアップロードする」という内容上、 実生活の活動がウェブ上の活動に大きく影響を及ぼし、 ウェブ上の活動が実生活に大きく影響を及ぼす。 『Twitter』でよくある「炎上⇒実名バレ」という流れは『ヤマレコ』でも起きているのだが、 一番恐ろしい事は「ウェブ上の活動」である『ヤマレコ』でいい格好をしたいが為に、「実生活」でリスク高い山行をしてしまい、その結果として遭難してしまう事にある。

 『ヤマレコ』で無茶な山行記録を書いても、それを諌めるコメントはほぼ付かないと言っていい。むしろ「よく無事に下山できましたね(凄い)」といったようなコメントが多い。 山小屋へのクレーム系の山行記録であきらかに書きすぎなものでも「(クレームに)同感です」というコメントが多い。 しかし、これは気をつけなければならない。書いた本人は周りの人間に”祭り上げられている””利用されている”ことに気がつかなければならない。 事故が起きるのは2つの要素が組み合わさったとき。すなわち「無謀な行動をする本人」と「それを諌めず、むしろ助長する周りの人間」。

 yucon氏とuedayasuji氏はいつ死んでもおかしくなかったように思える。周りから調子にのせられて進んでいった。 彼らが死んだとき、『2ちゃんねる』の登山・キャンプ・アウトドア板を見にいくと「なるべくしてなった」という意見が少なくなかった。 私も同感だった。そしてこうも思った。「yucon氏とuedayasuji氏以外にも事故予備軍的なユーザーは沢山いるのではないか」。 しかしながら、プロとして山に関する仕事を行っている人に、ウェブの世界と歴史を頭の中にイメージして、山行とウェブの相互影響を考えながら遭難の危険性を指摘できる人がいるとは思えず、 また、内容的に商業では書きづらいとも思える。その為、まずは「危険性を指摘した前例を作る」という意味で私が書く事にした。

 

 最後に『ヤマレコ』について言うと、『ヤマレコ』は素晴らしいSNSです。私自身、長年ユーザーなのですが機能的には何の不満もないですし、ありがたく利用させていただいています。私は自分の周りにも『ヤマレコ』の利用を薦めてます。 ただ、一つ言うならならずものを放置しすぎた。『ヤマレコ』がやったもの勝ちの世界になっていた。 拍手とか同情とか自己顕示とか承認欲求が目的の山行記録。そういったものが当たり前にアップロードされるSNSになってしまった。 この現象がエスカレートしていき、その影響による事故が発生するのではと懸念しています。

 ウェブは基本的に「やったもの勝ち」の世界ではあるのですが、それをアウトドアレジャー系のSNSで許したら、それはやがてユーザーのリアルな死に繋がるんだと、そう思うわけです。